不思議な感覚に包まれて、突然立ち止まってしまった。(中略)
上下左右前後から、一斉に音が聞こえた。新幹線や私鉄が乗り入れる構内の床一面に、靴音やキャリーバッグのキャスターの音が行き交う。右下に下りていく足音はホームに続く階段だ。「駅中」と呼ばれる一角の土産物店やコーヒーショップのざわめきは、天井や壁に反射して高さや広さを教えてくれた。
この感覚には前兆があった。目隠しを始めたばかりのころ、僕は音やにおいや触感を頭の中で逐一映像に置き換えていた。それが、いつの間にか消えた。電車の中で背後に立つ人々の気配を、話し声やヘッドホンから漏れる音で感じ、それをありのままに受け入れ始めた。
先週から毎日新聞の朝刊に、「ともに歩く - 目の探訪記 ―」と題して、アイマスクを1週間つけて盲人の体験をした記者の記録が連載されていました。
転載した上記の文章は、アイマスクをつけ始めて3~4日が過ぎたころに、その記者が体験した「感覚」です。
この連載記事を毎朝興味深く読みました。
そのなかでも、一際印象に残った文章です。