ひとつのお店があります。
ある人が勤めを退職したあとに始めたお店です。
「ある人」は、退職金を使って、町外れの土地を整地して、小さな建物を建てました。
「さて、これからどうしたらいいのだろう」と、「ある人」は考えました。
退職金は十分にはなかったので、土地はブルトーザーで平らにしただけで、建物も「屋根と壁はある」というぐらいのものでした。
それから数年がすぎました。
お店の調理場では近所のおばあさんが料理をしています。
お店の前の整地したままの空き地では、今日も「ある人」の元同僚が花壇をつくっています。
調理場の入り口には、さっき近所の人がもってきた野菜が置かれています。
夕方になりました。
町の若者たちがそれぞれに楽器をもってやってきました。
よく見れば、若者に交じって中年のおじさんやおばさんもいます。
調理場には昼間のおばあさんに替わって、女の人二人が食事の準備をしています。
やがて、お客さんが一人二人とやってきました。
お客さんのほとんどはこの町で見る顔です。
昼間に花壇をつくっていたおじさんは、もうビールで顔を赤くしています。
演奏が始まりました。
今夜は、町の音楽サークルが企画した演奏会です。
ところで、このお店の主人である「ある人」はどうしたのでしょうか。
「ある人」はお店の片隅に座っていました。
「ある人」は、お店ができた翌年に病気になりました。
なんとか退院はできましたが、まだ少し体が不自由です。
でも、あれからずっと、地元のいろんな人が、入れ替わり立ち代りお店にやってきました。
今では、店内の内装もほぼ終わっています。
何人もの人が携わったので、少し統一感がないけれど、とてもよい雰囲気になっています。
そしてそのお店の経理を任されているのが、私bunbunでした、とさ。