「じゃあ、また」
車から降りる声が聞こえて目が覚める。
「いま、何時?」
「12時を回ったところ」
翌朝、女房の話を聞く。
「S君が来てたけど、S君、2年前に網膜剥離でまったく見えなくなったんだって」
それは昨夜の、女房とその同窓生たちとの食事会の話。
同窓生と言っても、昨夜の集まりは少し変わっていた。
女房が卒業したのは地元のI中学校。
S君が卒業したのは、数年前の町村合併までは隣の町であったM中学校。
そして昨夜、誘い合って集まったのはそのI中学校とM中学校の同窓生たちの10数名。
その10数名のうちの多くは(女房も、そしてS君も)、進学によって地元のY高校の同級生になったのだけど、残りの数人はそれぞれの中学校から別の高校に進学した者たち。
だから、お互い初対面の者もいる昨夜の同窓会。
会の始まりに、勧められてその盲目のS君が挨拶をしたと女房は言う。
「ここに集まったみんなが楽しく過ごす時間を持って欲しい」とS君は挨拶したと女房は言う。
この会をすることを誰が思いついたのかは女房は知らなかった。
夕方、職場に行って片づけをした。
女房の同級生でもある、職場の後輩がたまたま来ていて、昨夜の話になった。
体調不良で昨夜の会を欠席したというその後輩は言った。
「S君がやりたかった昨夜の会だから」
夕食の準備をしている女房とそんな話をする。
私の目は見えない。
懐かしい友の声がする。
そして、知らない人の声もする。
その、知っている声と知らない声とが愉快に交わっている。
そういうことを思った。